《お寺の非課税とはどんなことか》

 昔は、お寺に税金がかからないことから「坊主丸儲け」などと言われていましたが、本当にそうなのでしょうか。実際には異なるといえます。宗教法人としてのお寺は、原則として非課税です。しかし、お寺であっても、政令で定められている物品販売や不動産の貸付等の事業については収益事業として課税されます。また、お寺の住職は、宗教法人であるお寺から給与を支払われます。給与所得については、サラリーマン同様に課税され、社会保険料等も当然支払い義務があります。一方、不動産収入等の収益事業があるお寺は、収益事業の収入は課税されます。収益事業の規模によっては、一部には宗教の収入よりも収益事業収入が大きいお寺もあります。このような恵まれたお寺は少数で、収益事業収入の少ない宗教法人としての収入のみのお寺がほとんどであるといえます。余談ですが、第2次世界大戦後の農地解放により、当時お寺が所有していた農地の多くは農家に所有権が移転しました。しかし、対象となったのは「農地」であり「商業地・宅地等」は対象外です。そのため、都市部のお寺で大地主が残っているのは、農地解放の対象とならなかったためです。地方のお寺は、農地を多く所有していたため、農地解放によって財政基盤が脆弱になったともいえます。

 話は変わりますが、お寺を維持していくのに一般的には檀家が最低300軒は必要と言われています。それでは、実際お寺の収入はどのくらいあるのでしょうか。個々のお寺により事情が異なりますので一概には言えませんが、檀家数300軒のお寺で年間1,500万円くらいではないでしょうか。1,500万円といえば、サラリーマンであれば高収入といえます。しかし、お寺の場合、その収入からお寺の維持費、住職の給与、本山への上納金(宗派により檀家数、収入額等により金額が決まります)、等を支払うと非課税とはいっても多くは残りません。昔であれば、本堂の建て替え、大修繕等の場合でも寄付を募ればそれなりにお金はいただけたと思いますが、現在では簡単に多額の寄付を前提にした活動は難しいと思います。

 お寺を維持するためには、人材の育成、本堂等の境内の維持、墓地の維持等多くの課題があります。その中でも、収入の維持はお寺にとって重要な課題といえます。なぜなら、いくら非課税といっても、収入がなければ非課税である意味はないからです。

エリアマーケティング研究会 お寺部会代表 尾形博